最先端の現場から:パート2
4つの大きな課題

センサーを活用した協働ロボットの導入時に
解決すべき4つの課題


センサーを活用した協働ロボットシステムを現場に導入すると、コロナ禍における作業者の安全確保から利益率や生産性の改善、抜本的な革新による新たな収益源の創出にいたるまで、莫大な費用対効果が見込めます。しかし、様々なプレイヤーと膨大なデータが混在する環境でシームレスな自動化フローを実現することは困難です。幸い、全体の自動化を実現する技術によって4つの大きな課題を解決することができます。

1. 作業者との近接性

脆弱な人間が強力なマシンに挟まれて作業すると、危険を伴います。従来のアプローチは、シールドや安全柵を使い、場合によっては完全に隔離された専用の部屋や建物を用意して、稼働中のロボットから作業者を適切に隔離するというものでした。しかし、人とマシンの距離が近くなり協働するコボット時代において、このアプローチはもはや通用しません。

幸いなことに、エッジコンピューティング技術を活用すれば、作業者を守ることができます。工業製品の世界的認証機関TÜV Rheinlandのコマーシャルプロダクト担当役員ライアン・ブラマン氏は次のように述べています。「レーザースキャナーやレーダー、ESPE(電気的検知保護設備)などの新たなセンシング技術の台頭により、人間や階段など、安全確認すべき対象物の位置をロボットが感知し、走行経路を調整したり、対象物が取り除かれるまで停止したりする制御ができるようになりました。これにより、ロボットが人間の隣で安全に作業することが可能です。技術が進化するにつれ、ロボットに置き換え可能な作業の範囲も大きく増えるでしょう」9

安全な協働ロボットシステムを構築するには、厳格なテストを実施する必要があります。「ロボットメーカーは、自社製品をそのまま安全に使えます、と宣伝しますが、あくまでも安全な作業セルを構築できる、という意味です。実際の用途やアプリケーションを想定し、人間とのやり取りを行って動作を確認し、徹底的に安全性を検証することは顧客企業の役目です」とブラマン氏はさらに述べています。

現実的には、設計や開発の初期段階から安全性を考慮する必要があります。 ABB Roboticsが開発した「YuMi」は、ごく標準的な機能ではありますが、柔軟にプログラミングできるサービスロボットです。ABBの広報・渉外担当グローバルマネジャーであるニック・オドネル氏は、次のように述べています。YuMiは、人間のすぐそばで、たとえ予期せぬ接触が発生しても安全に作業できるように設計された協働ロボットです。アームは緩衝パッドが付き軽量化され、モーション制御ソフトウェア、速度制限されたハードウェア、ピンチポイントの無い双腕・7軸アームなど、ハードとソフトの両面で安全性を備えています。」

85%
人間認知ロボットとの協働によるアイドルタイム削減効果:ロボットなしの作業時間との比較(インタラクティブロボティックスグループを主催するMITのジュリー・シャー教授による調査)6
50%
協働ロボットの活用で、単純組み立て作業のサイクルタイムを削減:ロボットなしの作業時間との比較(Veo Roboticsによる調査)7
30–40%
協働ロボット活用による効率改善:特定産業分野のオペレーションにおける実績(Robotics Market Trends )8

2. 許容負荷を超えるデータ量

機械の認識レベルが大幅に向上したことで、産業環境ではセンサーから得られるデータが豊富になりますが、分析や処理部門が対応しきれないこともあります。従来型のコンピューティング戦略やフレームワークの許容範囲を超え、ロボット活用による生産効率向上の成果が得られなくなる恐れもあります。

この問題はエッジコンピューティングで解決できます。ウインドリバーの製品担当シニアディレクターのミッシェル・シャブロウは、次のように述べています。 「現場で収集したデータすべてを他の場所、つまりクラウド環境に移してから処理するという方法は今や実用的ではなく、意味がありません」 また、エッジコンピューティングをロボットに応用することについて 「ロボットは、人工知能(AI)を搭載し、膨大なデータをエッジで取得することで、人間よりはるかに速いスピードで様々な判断ができ、生産性が高まります。統計的に見ても、ロボットは常にその場に最も適切な判断ができます」と語っています。

エッジで収集・処理されたデータを活用するロボットは、故障を予知したり、少なくとも品質基準の逸脱を検知することができます。組み立てラインのロボット同士がデータをやり取りし、故障リスクのあるマシンを停止させつつ、自らのワークフローをリアルタイムで順応させ、抜けたマシンの作業を穴埋めします。この間、生産ラインはスローダウンしますが、停止はしません。その後、技術者による調整や修正を経て、システム全体が通常のスピードに戻ります。これらを一体的に実現する唯一の方法が、エッジコンピューティングです。

「これだけ多くのマシン、センサー、データが混在する現場では、出来る限りエッジに近い場所でデータ処理を行う必要があります。ロボット自体の機能が充実すると、遂行可能な作業も増え、より多くの判断を自律的に行えるようになります」
 
—ミッシェル・シャブロウ
ウインドリバー
製品担当シニアディレクター
Michel Chabroux

3. サイバーセキュリティ

ロボットがモバイル化し、協働性が高まり、エッジに配備され、内外のセンサーやIoTデバイスに接続されるようになると、データが豊富なエコシステムは、ハッカーと思われる人に複数のアクセスポイントとなります。また、マルウェア、ランサムウエア、生産ラインの遅延、業務中断リスクなどに対する脆弱性が知らないうちに生まれることもあります。さらに、俊敏かつパワフルなロボットシステムがサイバー攻撃の標的になると、物理的な安全性にも重大な影響が出ます。

では、どう解決すべきでしょうか?その答えは、エンドツーエンドの包括的で一体的なサイバーセキュリティ対策です。対策の出発点は、デバイスメーカーです。TÜV RheinlandでCTOを務めるナイジェル・スタンリー氏は「製品を設計する開発者は、設計プロセス全体を通してセキュリティ対策を実装し、最大限安全なファームウェアを構築する必要があります」と述べています。10 次にシステムインテグレータが、侵入リスクのあるアクセスポイントの確認や、脆弱なターゲットの堅牢化を念頭に、インストール対象のマシン構造や運用環境全体の把握に努めます。最後に、ロボットシステム運用企業のIT部門が積極的に関与し、脅威の監視やセキュリティ対策の更新を進めていく必要があります。

「寿命を終えたデバイスにもセキュリティリスクはあります」と指摘するのはウインドリバーのセキュリティ担当主席アーキテクトのアレン・ベイカーです。「デバイス上の機密ソフトウェアやデータを暗号化して消去し、リバースエンジニアリングできないようにする廃棄プロセスが不可欠です」とベイカーは述べています。

4. 価格

技術の進化や新たなビジネスモデルの出現によるスケールメリットで、ロボット導入コストはさほど問題ではなくなりつつあります。マッキンゼーの調査では、産業ロボットの導入を検討中の企業のうち「コストが最大のハードルだ」と答えた割合は16%でした。また、コストは「5大ハードルのひとつだ」とする回答者は53%でした。11 しかし、ロボットメーカーがサービスプロバイダー化し、ロボットをサービス形式で提供するRaaS(Robots-as-a-Service)が普及すると、需要に合わせて稼働台数を拡大できるようになります。

コンピューティング、データ通信、ストレージ技術の進化により、新たな機能が続々と、低コストで提供されています。 「AIと機械学習アルゴリズムが効率化され、ロボットのプログラミングや新たなユースケースの考案が容易にできるようになりました。また、ロボットの稼働に必要なエネルギー消費量も低減できます」 ウインドリバーの最高製品責任者(CPO)キーラ・リチャードソンは述べています。ムーアの法則は、トランジスタ数で言うともはや成立しないと考える人もいますが、より多くの機能をより安価なプロセッシングコストで利用できるようになるので、コンピューティングコストの観点からは引き続き有効です」とリチャードソンは続けます。

$4万5千
一般的な協働ロボットの最高価格:工場設備の内外での多様な用途に無理なく導入できる価格帯(Robotics Online)12
2~3年
サービスロボットへの投資回収期間(24時間稼働を想定。国際ロボット連盟)13