顧客事例 リバーフィールド株式会社

手術支援ロボットシステム「Saroaサージカルシステム」にVxWorksを搭載

 

外科手術において、近年、「術後の回復が早い」「傷口が小さい」などの利点から 患者の負担が少ない術式として増加してきているのが、手術支援ロボットを活 用した治療です。日本国内では、2001年に臨床試験が始まりました。手術支 援ロボットは、手振れ防止機能や手術に使用する術具(鉗子)に関節があること で精密に操作を行えることから、今後さらに普及していくと予想されています。 リバーフィールド株式会社(以下、リバーフィールド)は、手術支援ロボットな どの医療機器研究開発および販売を行う、東京工業大学と東京医科歯科大学発 のベンチャー企業です。東京工業大学と東京医科歯科大学の研究成果の実用化 を目指して2014年に設立されました。リバーフィールドは、世界で初めて、「力 覚(触覚)」を再現することに成功した低侵襲外科手術用支援ロボット「Saroa(サ ロア)サージカルシステム(以下、Saroa)」を開発し、2023年5月には日本国内 の製造販売承認を取得、同年7月には承認後初めての手術が行われました。

「人命を扱う医療の現場で利用されるSaroaには、高いリアルタイム性の実現が 求められます。そのために欠かすことができない要件が、高速な応答性能、高 い信頼性、高い安全性などです。Saroaの開発には、これらの要件をすべて備 えたリアルタイムOSを必要としていました」

リバーフィールド株式会社 代表取締役社長 只野 耕太郎氏

 

リバーフィールド株式会社

業種

  • 手術支援ロボットなどの医療機 器研究開発および販売

採用ソリューション

  • VxWorks

メリット

  • 力覚フィードバックを備え、高 いリアルタイム性を実現した手 術支援ロボット
  • 空気圧システムの精密制御
  • 人命を扱う医療の現場で求めら れる高い堅牢性、信頼性、安全 性の実現

リバーフィールドが開発した世界初で始めて、「力覚」を再現することに成功した低侵襲外科手術用支援ロボット「Saroa(サロア)サージカルシステム」。Saroaでは、 没入型のモニターではなく、一般的なフラットパネルのディスプレイを採用。周りとのコミュニケーションが取りやすいのが特徴だ。

市場背景

力覚(触覚)なし、アームの干渉、高価など、 課題も多かった既存の手術支援ロボットシステム

日本国内で利用されている手術支援ロボットは、米国イン テュイティブサージカル社が開発した「ダヴィンチ(da Vinci)サージカルシステム(以下、ダヴィンチ)」が広く普及 していました。しかし、医療現場からは、大きく3つの課題 が挙がっていました。1つ目の課題は、「力覚」が備わってい ないこと。2つ目は、アームの干渉問題。3つ目は、コスト でした。

これまでの手術支援ロボットは、手術中、力の「感覚」がわ からないため、手術の精度を高めるためにも、この力覚を 実現してほしいという声がありました。また、アームが大 きく長いため、アーム同士が手術中に接触したり、近くに いる助手の先生とぶつかってしまったりと、アームの干渉 問題もありました。さらに、手術支援ロボットは非常に高 価という課題もありました。サイズが大きいだけでなく、重 量も1トン近くあり、設置場所の床の補強が必要なほか、大 きすぎてエレベーターに乗らない、ドアを通れない、電源 も200Vで手術室の配電盤の改造が必要になるといった、導 入における物理的な制約から本体以外にもコストがかかっ てしまうケースが発生し、導入をあきらめる病院もありま した。

開発課題

手術支援ロボットでどう力覚を再現するか

手術支援ロボットは、患者の体内に入るため、術前の洗浄 に耐えられるようメッキ処理が必要なほか、サイズも小さ い必要があります。また、電気メスなどの干渉も考慮しな ければなりません。力覚を再現するには、これらの手術支 援ロボットならではの課題に対応する必要がありました。

リバーフィールドは、これらの課題に対応するため、「空気 圧」を利用することで「力覚フィードバック」を再現しまし た。空気圧システムの精密制御技術は、握る力や掴む力、引っ 張る力など、精密な手術手技に必要不可欠な力覚を実現し ています。従来の手術支援ロボットにはなかった力覚を有 することで、ロボットを操作する医師は自分の手で直接手 術しているような感覚を得られ、手術の精度がより高くな ることが期待できます。

アプローチ

高いリアルタイム性を提供するVxWorksで 高度な制御を実現

リバーフィールドが開発した空気圧システムは、力センサー を利用することなく、力覚フィードバックを実現できるこ とが大きなメリットです。空気圧システムは、力センサー が不要なためコストダウンができ、小型・軽量化に適して いるというメリットがある一方で、その実現には別の課題 がありました。

その代表的な課題が、空気圧システムは構成要素が多く、制 御が複雑で難しいことです。さらに、手術ができるレベル に到達しているとはいっても、高速で精密な駆動は基本的 に不得意な分野であったため、電動と比較するとまだ一歩 劣る部分があり、改善の余地が残されていました。

高度な制御を実現するため、Saroaには、リバーフィールド が要件として上げていた高速な応答性能、高い信頼性、高 い安全性を兼ね備えた最良のリアルタイムOSとして VxWorksが採用されました。

「VxWorksを使うとおよそ1msレベルのハードウェアリアル タイム処理ができます。これによって、弊社が求めている 空気圧力などの制御を高速に精度よく行えます。また、医 療機器のため、高い信頼性および安全性、セキュリティの 確保は非常に重要です。その点、VxWorksは、ロボット分 野やMRI、内視鏡といった制御が伴う医療機器の分野で豊 富な実績があるため、医療機器で利用するリアルタイムOS として大きな安心感があります」リバーフィールド株式会社  設計開発部 ソフトウェア設計一部 部長 金澤 雅夫氏

導入効果

既存の手術支援ロボットの抱える課題を解消 中規模以下の病院にもロボット手術の恩恵を届ける

リバーフィールドの手術支援ロボット「Saroa」は、力覚を 備えたことが一番の特長ですが、注目すべきポイントはま だあります。

「Saroaは、重量が既存のロボットの半分強くらいで、サイ ズも人の背丈ほどです。軽量・省スペースのため、手術室間・ 施設内の移動もしやすく、より柔軟な運用が可能です。また、 既存のロボットと比較して導入しやすいコストを意識して開発されている点も特長の1つです」(只野氏)

Saroaは、競合他社の製品と比較してアームの数を1本少な くし、モニターや内視鏡などを筐体に含まないことで、コ ストの低減化を実現しています。「アームの削減は、コスト ダウンにつながっているほか、物理的なサイズがコンパク トになり、重量も軽くなるというメリットもあります。また、 助手との連携がしやすくなり、アームの干渉も起き難くなっ ています。モニターも他社のように覗き込むタイプではな く、病院ですでに保有しているものを組み合わせることが できますので、コストダウンできるうえ、フラットパネル のモニターなので、周りとのコミュニケーションが取りや すいといった声もいただいています」(金澤氏)

手術支援ロボットは、長い間、ダヴィンチ一強の時代が続 いていましたが、ダヴィンチの主要特許が切れ、市場に参 入しやすい状況になっています。リバーフィールドは、今 後もSaroaの改良を続けていくほか、その先の次世代の手術 支援ロボットの検討をはじめています。そして将来的には、 アジアやヨーロッパ、アメリカなどへの進出も視野にいれ ています。

また、現在の手術支援ロボットは、日本では大きな大学病 院などを中心に導入されており、中規模以下の病院には導 入が進んでいない状況です。リバーフィールドでは、「Saroa による手術支援ロボットの恩恵を地方の中規模以下の病院 でも届けていきたい」と話しています。


Return to Resource Center