
第3回 特許出願書類の構造と公開特許公報の読み方
今回は、特許出願に必要な書類がどのようなもので、それらがどのような構造の文章となっているのかを紹介します。
第2回に、各出願人から特許出願された技術的内容は、出願から1年半月後に公開特許公報という形で特許庁が公開することを紹介し、競合他社の開発の動向を監視するためにも、ご自身の研究の参考にするためにも、技術者の方にこの公開特許公報をぜひ読んでほしい、というお話をしました。
ところがこの公開特許公報、慣れていない方には大変読みにくいことで有名です。その原因は、大きく以下の2つでしょう。
- 使われている表現・言い回しが難解
- どこに何が書いてあるのか、書類全体の文章構造がわかりにくい
1については、ネイティブに日本語を話す人にすら解読困難な表現が使われているケースがあり、一部では「特許文学」と揶揄されるほどです。昔は、このような特許出願書類に固有の独特な表現・言い回しを理解して使いこなせるようになることが、特許事務所において特許出願書類作成実務にあたる弁理士にとって必要な専門スキルであり、ベテランの弁理士の方にとっては一種の参入障壁のような役割も果たしていました。しかし、もはやそのような時代ではありません。特に若い世代の弁理士の方を中心に、一般の技術者の方にもわかりやすい、簡潔で明瞭な日本語で特許出願書類を作成しようという機運が高まっており、以前に比べれば「特許文学」の割合は随分少なくなってきました。業界内でのさらなる改善努力に期待したいところです。
一方、2の問題は、一度、構造を理解してしまえば簡単に克服できますから、今回はこの点について説明します。
特許出願時に提出が必要な書類は、1)「願書」(正式名称は「特許願」)、2)「特許請求の範囲」、3)「明細書」、4)「図面」、5)「要約書」、の5種類です。出願する技術的内容を「明細書」の文章で説明するのにあたって、特に参照図面を必要としないと出願人が判断すれば「図面」は提出しなくても構いませんが、多くの特許出願では「図面」も提出されているようです。
公開特許公報では、これら5種類の書類が出願案件ごとにひとまとまりに統合された状態になっています。公開特許公報の1ページ目(「フロントページ」と呼ばれています)には、「願書」と「要約書」の内容がまとめて記載されており、以下、「特許請求の範囲」、「明細書」、「図面」の順で掲載されます。つまり、公開特許公報のフロントページを見れば、どの企業が、いつ、どのような技術について特許出願をしたのかについて、おおよそわかるようになっています。
ここで憶えておいて頂きたいポイントがあります。特許出願された技術内容は、特許庁の各技術分野の審査官によって、特許として認めるべきか、独占権を付与すべきか、を審査されることになるわけですが、「要約書」の内容は技術的審査の対象外なのです。「要約書」は、公開特許公報を通じて出願動向を把握しようとする大衆の便宜のために出願人に作成・提出が義務付けられたものだからです。このような事情から、出願人は「要約書」の作成にはあまり時間をかけないようにする傾向が見られます。換言すれば、出願された技術的内容が「要約書」に適切に要約されていない可能性があるのです。
したがって、「要約書」だけを読んで、「自分が携わっている技術分野に関連する特許出願ではあるけれど、大した内容ではないな。自分の仕事との関連性は低いな」と結論付けるのは大変危険です。「要約書」を読んで、ご自身が従事されている技術分野に関連がありそうな特許出願と思われた際には、必ず「明細書」も参照するようにして下さい。
一度でも公開特許公報を見たことがあれば、「あんなに長ったらしい明細書を読んでいる時間なんてない!」と思われるかもしれません。「明細書」は、文字通り、出願された技術的内容を詳細に記載した書類ですので、相当なページ数があるのが一般的です。
しかしながら、「明細書」には章ごとに所定の見出しを付けることが決められており、この見出しを手掛かりにすれば、欲しい情報が「明細書」のどこに記載されているのか、容易に発見することができるのです。
「明細書」に設けられている見出しは以下のとおりです。
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【発明の名称】 【技術分野】 【背景技術】 【先行技術文献】 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【課題を解決するための手段】 【発明の効果】 【図面の簡単な説明】 【発明を実施するための形態】 【実施例】 【符号の説明】 |
「明細書」を読んで、ご自身の研究開発に密接に関連する出願内容であるか否かを判断するためには、「明細書」に記載された技術がどのような分野に分類されるものか、「大分類」⇒「中分類」⇒「小分類」と徐々に具体的に特定していく必要があります。
まず、「大分類」は、「技術分野」という見出しがついた章に記載されています。ここを読むことによって、出願された内容が、化学分野なのか、あるいは電気通信分野なのか、といった大まかな技術分類を把握することができます。
「大分類」を見て関連がありそうだと思えば、次に「中分類」を確認します。「中分類」は、その発明がどのような技術的課題を克服するために為された発明なのか、「発明の目的」を確認することができます。たとえば、バッテリー分野であれば、時間あたりの出力をできるだけ高めたいという目的で為された発明なのか、あるいは、繰り返し寿命を高めたいという目的で為された発明なのか、と出願された技術を分類し、把握しようというわけです。
ところが、「発明の目的」という見出しは「明細書」中には設けられてありません。「発明の目的」は、慣習上、「発明が解決しようとする課題」という見出しが付けられた章の最後の段落に記載することになっています。したがって、「発明の目的」が記載された段落に到達するためには、「発明が解決しようとする課題」という見出しを探して、その章の最後の段落をあたるか、あるいは、「発明が解決しようとする課題」の次の章である「課題を解決するための手段」という見出しを探して、その直前の段落にあたることが必要になります。
「中分類」を見てもまだ関連性が高いということであれば、次に「小分類」を確認します。「小分類」は、「課題を解決するための手段」という見出しが付けられた章の出だしの数段落に記載されています。ここでいう「小分類」は、具体的にどのような部品や構造に着目しているのか、あるいは、形状または材質など何に対する工夫なのか、といった階層の話をイメージしています。
なお、「課題を解決するための手段」の章は、慣習上、「特許請求の範囲」をベースとして記載されることが多く、「小分類」は「特許請求の範囲」の請求項1を参照することによっても把握可能です。ただし、通常、「課題を解決するための手段」の章は「特許請求の範囲」よりも読みやすく記載されていることが多いため、「課題を解決するための手段」の方を参照することをお勧めします。
「小分類」を見てもなお、ご自身が携わっている技術分野に密接に関連しているということであれば、それはまさに、隅から隅まで熟読すべき公開特許公報です。上記のようなフィルタリングのコツを覚えて、熟読すべき公開特許公報の数を減らし、研究開発をより効率的なものにしてください。
■著者プロフィール
佐藤 健一郎(さとう けんいちろう)
一級知的財産管理技能士、知的財産修士(MIP)慶應義塾大学理工学部機械工学科卒業後、コンサルティングファーム、大手国際特許事務所勤務を経て、金型製造メーカーの知財部長に就任。その後、法務部長を兼務。2010年1月、株式会社第二知財を創業、主に知財部機能を持たない中小メーカーを対象に、知財コンサルティングサービスを提供している。
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