
第2回 特許情報から他社動向を読む
今回は、技術者の方に知っておいてもらいたい、特許情報の重要性についてお話しします。特許庁から提供される特許情報から、さまざまな有益な情報を得ることができるのです。
技術開発競争に日々追われる技術者の方であれば、当然ながら、ライバル会社の動向が気になるでしょう。ライバル会社の動向を把握し、市場における自社の立ち位置を分析することは、自社の技術開発戦略を立てるのに必須ですから。
その際に、ライバル会社の動向をどのようにして調査・分析されているでしょうか? 他社製品を実際に購入してきて分解する(いわゆるリバースエンジニアリング)、パンフレットやプレスリリースとして発表されている内容を読む、新聞・雑誌・業界紙などの記事を読む、学会やセミナーに参加して情報を収集する、などさまざまなアプローチがありそうです。
とはいえ、技術者の方に最も重視して頂きたいのは、ライバル会社の特許情報の調査・分析です。その理由は2つあります。
第1に、ライバル会社の技術開発動向を把握しようとする際に最も多くの情報を提供してくれるのが特許情報であるためです。特許情報には技術情報が詳細に開示されています。パンフレットには、機能や効果は記載されていても、その機能や効果を実現するための構造や構成まで詳細に説明されていません。これに対して、特許出願書類には、出願された発明の技術内容が詳細に記載されています。なぜなら、特許制度の目的は、発明を広く一般に公開した代償として、一定期間、その発明を出願した者に特許権という独占排他権を付与することにあるためです。
また、パンフレットは、実際に市場に投入された製品やコンセプトを紹介するためのものです。しかし、最終的な事業化に至らなくても、研究開発成果を権利化するために特許出願だけはしておく場合もあります。特許情報を調査すれば、このような「競合他社がリソースを割いて研究開発したが、市場には出てこなかった技術」についても把握することができるのです。
したがって、ライバル会社の特許出願動向を調査すれば、現在研究開発を行っているであろう技術や、過去に研究していた技術を把握し、相手の着眼点(リソースを割いている研究開発テーマ)を推察することができます。さらに、特許出願の時系列推移を見ることにより、特定の技術分野に増加傾向があれば、近いうちに新製品が市場投入されるのではないか、減少傾向にあれば撤退の可能性があるのではないか、と推測することも可能です。
特許情報の調査・分析を重視する第2の理由は、いわゆるパテントクリアランス確保のためです。パテントクリアランスは、自社製品による他社の特許権侵害を回避することを指します。特許権は、他者を排除して特許権者だけがその発明を独占的に実施できる権利ですから、市場投入した自社製品が他社の保有する特許権を侵害していた場合、製造・販売の差止請求を受けたり、ライセンス料や損害賠償の請求をされたりする可能性があります。このような場合、一旦軌道に乗った事業からの撤退や、事業継続のための多額の出費を余儀なくされる可能性があり、そうなると企業経営へのダメージは甚大です。したがって、研究開発段階から、競合他社がどのような特許権を保有しているのかを把握した上で、自社製品の開発を進めていくことが重要になってきます。パテントクリアランス確保のためには、競合他社が保有する特許権の調査が欠かせないのです。
以上のように、特許情報の調査は、1.他社の技術開発の動向を把握するための「先行技術調査」と、2.他社が保有する特許権を把握するための「パテントクリアランス調査」、の2つに分類できます。注意すべきは、これら2種類の調査において、調査対象となる書類が異なることです。
特許情報を調査する際に対象とする文書は2種類あります。先行技術調査に有効な「公開特許公報(公開公報)」とパテントクリアランスのための「特許掲載公報(特許公報)」で、どちらも特許庁が発行しています。
重複投資・重複研究防止などを目的として、すべての特許出願の内容は原則、特許庁へ出願手続きがされた日(出願日)から1年6カ月後(実際には、事務手続き上の関係から、1年6カ月を経過した日から2〜3週間後)に、特許庁によって広く一般に公開されます。この公開のために特許庁が発行する公報が「公開公報」です。他社技術開発動向の把握を目的とした「先行技術調査」の場合、この「公開公報」を調査対象とします。なぜなら、原則として、出願人が出願書類に記載した内容がそのまま、「公開公報」において公開されるためです。なお、出願日から1年6カ月を経過していない特許出願の内容は公開されていないため、調査することはできません。
一方、特許庁審査官による審査を経て特許権が成立した際に、その旨を広く一般に知らしめるために特許庁が発行する公報が「特許公報」です。他社保有特許権回避を目的とした「パテントクリアランス調査」の場合、この「特許公報」を調査対象とします。中でも「特許公報」の「特許請求の範囲」という見出しのついた項目に注目する必要があります。なぜなら、特許権の及ぶ技術的範囲は、「特許請求の範囲」の記載によって定義されることになっているためです。また、この「特許請求の範囲」の表現は、特許庁における審査段階において、出願時に開示された技術的範囲内で変更される可能性があるため、必ず、「公開公報」ではなく、「特許公報」で確認する必要があります。
「公開公報」および「特許公報」は、独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営する「特許電子図書館」を通じて、だれもが無料で閲覧・ダウンロードできます。ぜひ参考にしてみてください。
■著者プロフィール
佐藤 健一郎(さとう けんいちろう)
一級知的財産管理技能士、知的財産修士(MIP)慶應義塾大学理工学部機械工学科卒業後、コンサルティングファーム、大手国際特許事務所勤務を経て、金型製造メーカーの知財部長に就任。その後、法務部長を兼務。2010年1月、株式会社第二知財を創業、主に知財部機能を持たない中小メーカーを対象に、知財コンサルティングサービスを提供している。
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