
仮想プラットフォームの活用で、インテル製品のライフサイクルプロセスを改善
投稿者:Eddie Glenn, 2011/08/11
インテル社主任エンジニアのAtul Kwatra氏へのインタビュー
同僚のJakob Engblomと私は、先ごろ、インテルの主任エンジニアであるAtul Kwatra氏に会う機会があった。同氏の担当は、仮想プラットフォーム戦略を推進し、インテルにおけるインテリジェントシステムグループ(ISG)の技術的な方向性を示すことである。ISGは組込、ネットワーキングおよび通信の市場向けの製品に焦点を絞っている。
我々が特に知りたい点は、インテルが仮想プラットフォームをどのように活用して、製品ライフサイクルを改善し、リスクの軽減、市場投入までの時間の短縮、コストの削減を実現するのかということである。
Eddie Glenn(以下、EG):インテルでは主に何を担当されていますか?
Atul Kwatra氏(以下、AK):機能モデリング、パフォーマンスモデリング、高度な統合、外部のお客様での実用化など、ISGの仮想プラットフォーム関係の技術的なリーダーシップを取っています。私が担当しているのは、仮想プラットフォームを使用して、製品開発フロー全体を改善し、アーキテクチャ、設計、ソフトウェア、検証組織と、異なる分野にまたがる効率の向上を図ることです。
EG:今、世界の半導体メーカーが直面している、製品開発における主な課題は何だとお考えですか?
AK:組込および通信分野の市場は、成功を収めている半導体ソリューションメーカーが固定化し、大幅な細分化が進んでいます。この市場で勝ち残るため、半導体メーカーは複数のアプリケーションそれぞれに固有の製品を提供できるだけの機動性を備える必要があり、それを低コストで、市場投入もごく短時間で行わねばなりません。市場投入までの時間、能力、性能測定で優位に立つため、製品には、ハードウェアとソフトウェアの効率的な統合がますます必要になっています。
Jakob Engblom(以下、JE):こうした課題に対して、仮想プラットフォームはどう対応するのですか?
AK:仮想プラットフォームは、製品開発サイクルのごく初期の段階において、ハードウェアとソフトウェア両方を最適化する重要な機能を提供しています。これは、最低限の開発コストで、最適な製品を最短で市場に提供する上で不可欠です。
JE:インテルは、製品開発ライフサイクルを改善するために、仮想プラットフォームをどう活用していますか?
AK:インテルでは、仮想プラットフォームにより、アーキテクチャ、設計、検証、およびソフトウェアといった分野間での機能効率性を高め、製品開発サイクル全体を改善しています。
EG:Wind River Simicsがもたらした大きな利点は何ですか?
AK:Simicsには、製品開発サイクルのごく初期段階で、フルシステムのシミュレーションができる機能があります。非常に高速なシミュレータであることに加えて、Simicsには、あらゆることを決定できる機能、複数システムでの同期、リバース実行、フォルト投入、チェックポイント設定(編集者注:チェックポイントは、完全なシステム状態を保存しておき、後で、まったく同じ地点から実行を再開できる機能を提供する)といった、優れた機能を備えています。これによって、開発チームは、プロセッサ製造前の時間枠のなかで、検証と本番用ソフトウェア開発を効率的に完了することができるので、通常、プロセッサ到着後のハードウェアとソフトウェアの統合にかかる時間を短縮できます。お客様やパートナーも、実際のプロセッサを入手する前に早くからフルプラットフォームにアクセスできるので、エンドカスタマーの市場投入までの時間も全体的に改善できるのです。
JE:インテルで使われている仮想プラットフォームは何ですか?
AK:仮想プラットフォームは、主に、ソフトウェア開発の機能モデリングの機能と関連付けています。インテルでは、正確な機能モデリングの登録に加えて、パフォーマンスモデリング、電力モデリング、シミュレーションとエミュレーション/FPGA 実装をミックスしたハイブリッドシステムのシミュレーション、および、お客様での早期の実用化に仮想プラットフォームを使用しています。
JE:仮想プラットフォームがなかった頃と比べると、作業はどれくらい前倒しできますか?
AK:仮想プラットフォームをベースとした製品開発フローでは、機能モデル、パフォーマンスモデルの早期開発をアーキテクチャの定義段階で行えます。機能モデルはまず、ハードウェア設計者、ソフトウェア設計者の両方を含むアーキテクチャ設計チームが使用し、アーキテクチャ自体を検証します。個々のシステムコンポネントの機能モデルは、プロセッサ以前、プロセッサ以後の検証項目の開発やソフトウェアの早期実用化のために、後から仮想プラットフォームに組み込みます。仮想プラットフォーム以前は、ハードウェアとソフトウェアの統合はエミュレートできる安定したRTLモデルが使えるようになるまでは開始できませんでした。そのため、仮想プラットフォームによって数か月先行することができます。
JE:TLM、CCなど、どのようなタイプの仮想プラットフォームをお使いですか?
AK:様々な抽象化レベルで仮想プラットフォームモデルを開発し使用しています。インテルの一部のモデルは、業界標準(OSCI TLM ? Open SystemC Initiative Transaction Level Modeling)に基づいて、インテル固有ではないシミュレーションインフラストラクチャで開発されました。機能モデリングには、LT(Loosely-Timed)モデルを、サイクルアキュレートなパフォーマンスモデリングにはAT(Approximately-Timed)モデルを使用しています。これらのモデルは、Simicsシミュレーションインフラストラクチャに組み込んで、Simics固有の機能モデルの膨大なライブラリを補足することができます。
JE:仮想プラットフォームでは、どういった種類のデータを収集していますか?
AK:製品開発サイクルの初期段階でのソフトウェア開発に仮想プラットフォームを使用することに加えて、パフォーマンスモデルや電力モデルと関連させて使用し、次世代製品のパフォーマンスや電力特性の予測や最適化を行っています。
JE:主にどのようなワークフローで進めていますか?
AK:ISG製品では主に、CPUやチップセットチームが開発したインテルのコアテクノロジを可能な限り活用し、新機軸に向けた努力を続けています。まずは、コアプラットフォーム(CPUコア、メモリサブシステム、グラフィクスなど必要に応じて)から始め、組込、ネットワーク、および通信の市場向けの特殊な機能を提供するために必要なその他の内部/外部のIPコンポネントを追加します。インテル製品には、マルチコアSoCと、標準のインテルプラットフォームに付随し、市場が求める固有の機能を果たすためのハードウェアを加速する機能を提供するコンパニオンチップも含まれています。
JE:ご自身ではどのようなモデルを作られていますか?また、インテルの他の部門を参考にしますか?
AK:CPUコアモデルについては、通常インテルの他の部門を参考にしており、組込、ネットワーク、および通信の市場向けの特殊な機能を提供するために必要なコンポネントについては、モデルを開発します。
JE:プラットフォームをどのように評価していますか?
AK:仮想プラットフォームの大きな社内目標の1つは、開発サイクルの初期段階で検証テストスイートの開発を可能にすることです。これにより、従来のプラットフォームで行っていたこれまでのテストと、新機能向けに新たに開発されたフォーカステストの実行に基づいて、仮想プラットフォーム自体を検証するという利点が得られます。仮想プラットフォームシミュレーション環境では、RTLブロックの統合により、新たに開発されたIPブロックや既存のRTLを持つブロックに対してシステムレベルのコンテキストを提供することも可能です。これで、フルシステム環境での新しいIPブロックの検証が可能になります。RTLブロックは、エミュレーション/FPGAシステムに統合して仮想プラットフォームに接続し、シミュレーション全体のスピードアップを図ることもできます。
JE:詳細モデリングと比べて、TLMモデリングはどう重要なのですか?
AK:トランザクションレベルの機能モデルと、詳細でサイクルアキュレートなパフォーマンスモデルは、どちらも開発フローに位置付けられます。機能モデルを使ってソフトウェアの早期実用化を図り、パフォーマンスモデルはマイクロアーキテクチャの最適化と、早期のパフォーマンス予測に使用します。機能モデル/パフォーマンスモデルから派生するモデルも、電力、エリア、パフォーマンスのトレードオフの調査のため、開発フローのごく初期段階から高度統合ツールに取り込まれます。
JE:モデル化しているのは実際のボードですか?コアチップセットだけですか?
AK:目標としているのは、段階的アプローチを使ってシステム全体を完全にモデル化することです。
JE:そのモデルは、どういった種類のエンジニアが利用するのですか?
AK:モデルは、ハードウェアエンジニア、ソフトウェアエンジニア、検証エンジニアが使用します。
EG:仮想プラットフォームからインテルが得ている主なビジネス価値とは何ですか?
AK:仮想プラットフォームは、製品開発効率の向上に大きく貢献し、ハードウェア/ソフトウェアの早期開発を可能にしています。おかげで、インテルにとっても、お客様にとっても、開発コストを低く抑え、市場投入までの時間/収益化までの時間を短縮できています。
EG:Simicsは、インテルの仮想プラットフォーム戦略にどの程度合致しているでしょうか?
AK:Simicsは、今後のインテルの仮想プラットフォーム戦略において重要な部分を占めます。インテルでの導入は比較的最近のことなので、その役割は今後ますます発展していくでしょう。目標は、フルシステム機能を提供する高速機能シミュレーションツールとしてSimicsを展開し、新機能を徐々に追加し、新たな使い方をサポートしていくことです。
Kwatraさん、今日はありがとうございました。今後とも一緒にお仕事をさせていただくことを楽しみにしています。


